家族信託を使って、遺留分侵害額請求権を事実上封じる方法(自宅編)

ストップ 家族信託の応用

こんにちは。司法書士の甲斐です。

家族信託は比較的新しい制度であり、後見制度や遺言では不可能だった事が出来るようになります。

一方、新しい制度であるが故に、法律上不明確な部分も多く、実務家も日々悩み試行錯誤しながら家族信託に取り組んでいます。

今回取り扱うテーマ「遺留分」も、家族信託にとっては非常に悩ましい部類の一つになります。

家族信託の事を色々と調べられた方は、

家族信託で遺留分が消える!

なんて聞いた事があると思います。

遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に与えられた、最低相続分です。

何らかの理由で財産を残したくない相続人がいても、この遺留分があるおかげで理想を実現する事が中々難しい。

「でも家族信託を利用すれば、遺留分が無くなるので、嫌な相続人に財産を相続されずに済む!」

と言う流れになるのですが、はたしてそう上手くいくのでしょうか?

結論を先にお話ししますと、裁判所としては判断はまだ確定していませんが、やり方によっては、遺留分を事実上封じ込める事ができるケースもあるのです。

1.事例紹介。財産がほぼ自宅しかない場合に困る事

【事例】
守さんは悩んでいました。

先月の健康診断で初期のガンが見つかり、自分にもしもの事があった時の為に色々と考えていたのですが、問題は一人息子の武士さんです。

武士さんは守さんとは別居しているのですが、40歳を過ぎてもまともに働いておらず、何かにつけて守さんにお金を無心してきます。

その為、守さんのめぼしい財産は自宅のみとなり、守さん自身も経済的に厳しい生活をしています。

守さんは、

「もし自分が死んだとしても、自宅だけは妻の春子に絶対に残してあげたい。」

と思っています。果たして守さんの思いを実現させる事は出来るのでしょうか・・・?

2.家族信託以外の対応方法

① 遺言で自宅を相続させる

自宅を春子さんに残す為に、自宅を春子さんに相続させる旨の遺言を作成する事が考えられます。

しかし、武士さんには最低相続分である遺留分があります。

武士さんは40歳になってもまともに働いていない為、確実に遺留分侵害額請求を行ってくるでしょう。

その為、遺留分を請求された場合、春子さんは金銭で支払う必要があります。

しかし、めぼしい財産は自宅のみです。

武士さんに遺留分として支払うお金もきっとないでしょう。

そうすると、遺言を無視して自宅を共同で相続する方法があります。

しかしそれは自宅の名義が共有になると言う事であり、残された春子さんにとっては避けたい事態でしょう。

② 自宅を贈与する

もう一つの方法は、自宅を生前贈与する方法です。

相続時精算課税制度や夫婦の間で居住用の不動産を贈与した時の配偶者控除を利用すれば、税金の問題も少なくすみます。

なお、妻への自宅の贈与は特別受益に該当します。

その為、特別受益の持戻しの問題が発生しますが、贈与時に持戻し免除の意思表示や、相続法改正による持戻し免除の意思表示の推定を利用する事で、遺産分割において自宅が持戻しされる事はありません。

【特別受益の持戻し】
配偶者への自宅の贈与等は『特別受益』と呼ばれ、特別受益があった場合、遺産分割時に贈与された財産がまだ遺産の中にあるとみなして、各相続人の相続分を計算します。

では、特別受益の持戻し免除の意思表示を行った場合、遺留分の計算はどうなるのでしょうか?

贈与した守さんの意思としては、特別受益の持戻し免除の意思表示を行ったのだから、遺留分を計算する上でも自宅を遺産に入れたくないと思います。

しかし、この点についは判例があり、例え特別受益の持戻し免除の意思表示を行ったとしても遺留分算定上関係がなく、遺留分を計算する上で贈与された財産を入れる必要があるのです。

(最高裁第1小法廷平成24年1月26日判決)

このように現状の制度では、どうしても武士さんに遺留分侵害額請求権を行使される可能性があり、守さんの願いを叶える事は中々難しいのです。

3.家族信託を利用した解決方法

それでは、家族信託を利用して、何とか春子さんの為に自宅を守る方法を考えてみましょう。

まず、

・委託者兼受益者を守さん、受託者を春子さん。
・守さんが亡くなった場合の二次受益者を春子さんと武士さん。

とし、信託財産を自宅及び自宅を管理する為の金銭とする信託契約を、守さんと春子さんで締結します。

さらに、二次受益者に与える受益権の割合として、春子さん4分の3、武士さん4分の1とします(このような取り決めも可能です)。

このような家族信託を設計した場合、もし守さんが亡くなったら、受益権が春子さんと武士さんに移動します。

受益権も遺留分侵害額請求の対象となると考えられているのですが、武士さんは遺留分相当額の4分の1の権利を得ており、その為、遺留分侵害額請求は不可能になります。

また、自宅の名義は信託契約を締結した事により受託者の春子さん名義になっているので、武士さんが勝手に処分をする事は出来ません。

あれ?ちょっと待って下さい。これだと春子さんが受託者兼受益者になるので、信託がいずれ終了しませんか?

良い所に気が付きましたね。受託者=受益者になった場合、1年後に信託が終了するのですが、その条文を良く見てみましょう。

第百六十三条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
受託者=受益者になった時に信託が終了するのは、あくまで受託者が受益権の全部を取得した場合です。
事例では、受益権は春子さんと武士さんの共有ですので、信託は終了する事はありません。

このような家族信託を設計する事で、守さんの「妻の為に自宅を守りたい」と言う思いが実現出来る事になります。

4.まとめ

このように、家族信託を上手に活用する事で、成年後見や遺言等で不可能だった事が出来るようになるのです。

ただし、家族信託を活用する場合は、各ご家庭のご事情をきちんと精査した上で行う必要があります。

当然ながら、今回ご紹介した方法が利用出来ない事だってあります。

その為、家族信託のご利用をお考えの場合は、必ず専門家にご相談するようにして下さい。

【本サイトでは、家族信託(民事信託)について網羅的に解説しています。今後のご参考にもなる情報でもありますので、よろしければブックマーク等を行い、後からでも閲覧できるようにする事をお勧めします。】

 

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この記事の執筆者

横浜市泉区の心理カウンセラーの資格も持つ司法書士。法律・老後資金・感情等多角的な視点から、自分らしい人生を送る為の認知症対策、相続対策をの提案を得意とする。元俳優/福岡県北九州市出身/梅ヶ枝餅、かしわめし弁当が大好き/趣味は講談/

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