配偶者に成年後見人がついている時の相続対策のための家族信託

家族信託の活用事例

高齢者の中の認知症患者数の割合が増えてきており、両親の一方が認知症で成年後見人が選任されいるご家族も少なくないでしょう。

実はその場合に、認知症ではない配偶者が亡くなり相続が発生した場合、困った事になるのです。

しかし、その困った事も家族信託を活用すると解決する事が可能となります。

1.具体的事例

太郎さん(82歳)には奥様の花子さん(76歳)がいらっしゃるのですが、認知症になり、意思能力・判断能力が低下しました。

その為、家庭裁判所に後見の申立てを行い、成年後見人(司法書士)が選任されました。

また、介護等が必要となった為、近くの施設に入所しています。

なお、太郎さんには近所に住んでいる一人息子の一郎さん(63歳)がいらっしゃいます。

太郎さんの悩み事は、ご自身の相続の事です。

太郎さんはご自宅以外にも複数の不動産を所有しており、その管理が大変な為、数年前に、

「もし太郎さんが亡くなった場合は全ての財産を一郎さんが相続する」

事を、家族で話し合い、その事について花子さんも賛成していました。

しかし、花子さんは今、認知症になり成年後見人が選任されています。

その為、もし太郎さんが亡くなった場合、成年後見人は花子さんの権利を守る為に、遺産分割協議で花子さんの法定相続分を主張してくるでしょう。

これは元気だった時の花子さんの意思は関係ありません。

成年後見人の職務として、本人の権利を守るため、必ず法定相続分を主張してくるのです。

そうすると大半の不動産が花子さんと一郎さんの共有状態になり、その管理や処分に支障をきたす可能性が出てきます。

また、太郎さんが全ての財産を一郎さんに相続させる旨の遺言を残したとしても、花子さんの成年後見人は花子さんの最低相続分である遺留分を主張してくるでしょう。

結局のところ、せっかく家族間で話し合った事が実現する事が出来なくなり、太郎さんは困ってしまっているのです

2.成年後見人の職務は本人の利益を守る事

本事例で少し疑問に思われた方の為に補足しておきます。

成年後見人の仕事はそもそも何なのか?と言うお話しです。

成年後見人はあくまで本人である被後見人(事例で言えば花子さん)の利益を第一に考えて、その仕事を行う事が義務付けられています。

確かに、数年前に家族で太郎さんの相続について話し合った時は、一郎さんが全ての財産を相続する事にしました。

花子さんもそれに納得しています。

しかしそれは、あくまで当時の花子さんの意思であり、現在はどうか分かりません。

その為、成年後見人は花子さんの昔の意思とは関係なく、現時点における花子さんの利益を最優先します。

それが成年後見人としての義務だからです。

その為、成年後見人は遺産分割協議で必ず法定相続分の主張を行います。

また、仮に遺言で遺留分を侵害されたのであれば、遺留分減殺請求を行い、被後見人である花子さんの利益を守る為に動くのです。

3.家族信託を活用した解決方法

それでは、今回のケースにおける家族信託の活用による解決方法を見てきましょう。
  
まず、委託者兼受益者を太郎さん、受託者を一郎さんとします。

信託財産は不動産と、不動産を管理する事ができる現金です。

次が重要になるのですが、太郎さんが亡くなった後の次の受益者を一郎さんと花子さんの共有にし、その受益権の割合を、一郎さん4分の3、花子さん4分の1とします。

このように花子さんの遺留分を受益権としてきちんと確保する事により、花子さんの成年後見人は遺留分の主張を行う必要がなく、本来の仕事に専念出来ます。

(受益権の割合は遺留分以上にしても問題はありません。)

また、信託財産とした不動産の名義は受託者である一郎さん名義になっております。

その為、不動産の管理や処分も一郎さん単独で行う事が出来て、ここでも花子さんの成年後見人は複数の不動産の管理・処分を行う必要がなく、本来の仕事に集中出来ます。
 
そして、花子さんがもし亡くなった場合、その受益権を一郎さんが取得する事にして、信託を終了させます。

このような家族信託を設定する事により、当初家族間で話し合っていた事が実現出来ます。

また、花子さんの成年後見人にとってみても、不必要な事を行う必要がない、と言う結果になるのです。

4.まとめ

事例のようにご家族の方に認知症の方がいらっしゃる場合は、必ず相続対策が必要になります。

意思能力、判断能力が無ければ遺産分割協議を行う事が出来ません。

また、成年後見人が選任されていれば、非常に厳格に法律上の権利を主張され、柔軟な解決が難しくなります。

その為に、相続対策の一つとして、家族信託の活用を考える必要があるのです。

 

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