成年後見(任意後見)における財産管理の考え方

家族信託の基本

こんにちは。司法書士の甲斐です。

家族信託はご本人の財産管理を行う事が出来る制度ですが、その説明として、成年後見や任意後見との財産管理の違いが良く話されています。

「家族信託は成年後見(任意後見)制度では出来ない、自由な財産管理が可能!」

と家族信託の専門家が良く言っているのですが、そもそも成年後見(任意後見)制度における財産管理って何なのでしょうか?

この事が分からない限り、家族信託との違いが良く分からないと思います。

そこで今回は、成年後見(任意後見)の財産管理の基本的な考え方と、具体的事例をご紹介したいと思います。

1.成年後見とは?

知らない方の為に簡単に説明しますと、

【成年後見(法定後見)】
認知症等の理由によって意思能力・判断能力が低下している本人に代わって、本人の財産管理や契約ごとを行ってくれる人です。

本人の親族等、一定の方が家庭裁判所に申立てる事により、選任されます。

成年後見人は本人の親族や弁護士、司法書士と言った専門家が選任される事があります。

【任意後見】
将来、認知症等の理由によって意思能力・判断能力が低下する時に備え、事前に自分の後見人(任意後見人)と任意後見人の仕事の内容を決めておく事ができる制度です。

事前に決めておく事ができるのが、成年後見との大きな違いです。

成年後見人も任意後見人も、本人の財産を管理する事になるのですが、何でも出来るわけではなく、基本的な考え方があるのです。

2.成年後見(任意後見)の財産管理の基本的な考え方

後見人の財産管理の基本的な考え方は、

「本人の意思を尊重し、かつその心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」

となっています(民法第858条、任意後見に関する法律第6条)。

後見人には本人の財産について包括的(つまり、丸ごと)な代理権が認められています。

でも、その権限は本人の利益の為に使われるものであり、本人の利益を犠牲にして、後見人や第三者の利益を図るような事は許されません。

実際には、本人の意向や個別具体的な状況を考える「本人の為になるのか?」と悩ましいケースが出てきます。

そのような難しい判断を迫られても、あくまで「本人のため」にその権限を行使する事が必要になってきます。

3.成年後見制度の財産管理の具体的事例

① 不動産の売買(居住用不動産)

「親が認知症になり、施設に入所する必要があるのですが、その資金の為に親名義の自宅を売却したいんです。成年後見を使えば自宅を売却できるんですよね?」

成年後見制度を利用するきっかけとして一番多いのが、この「認知症の親の自宅の売却」です。

実は成年後見を利用しても親の自宅の売却を簡単には出来ません。

親(本人)の自宅を売却する場合、成年後見人は家庭裁判所の許可を受けなければなりません(民法第859条の3)。

親の自宅は本人の生活基盤そのものであり、それに変化が起きると言う事は本人にも大きな影響を及ぼす可能性がある為、特に慎重な対応が求められているのです。

その為、単純に「自宅を売りたい」と言う理由だけでは家庭裁判所の許可は出ず、自宅を売却する必要がある合理的な理由が必要になります。

・認知症がかなり進行しており、1人暮らしが困難。
・施設への入所資金が自宅を売却しない限り用意できない。
・本人が自宅に戻る可能性が低い、等
このような条件があって初めて許可が出るでしょう。

② 相続税対策

財産がそれなりにあり、継続的な相続税対策を行っている方がもし認知症になり、成年後見制度を利用した場合、その後も継続的に相続税対策を行う事は可能なのでしょうか?

まず考えなくてはいけないのは、

「成年後見制度は本人の為にある」

と言う点です。

では相続税対策で得をするのは誰かと言いますと、それは本人ではなく、相続税の減額を受ける本人の相続人です。

また、相続税対策は財産の処分を初め、ローンを組んで不動産を購入、アパート建設等を行う事があり、本人に借金を負わす事は裁判所としても認める事は難しいでしょう。

このような点から、成年後見制度を利用した場合、継続的な相続税対策は困難であると言えます。

③ 投資関連

昨今、年金の支給年齢が引き上げられると言ったニュースを受け、老後資金の為に資産運用を行っている方もいらっしゃいます。

では、資産運用をしている方が成年後見制度を利用した場合はどうなるのでしょうか?

基本的には本人が後見開始前から保有していた株式や投資信託等の金融商品に関して、処分(現金化)するタイミングは、成年後見人に委ねられています。

例えば、比較的運用実績がある金融商品をについて、そのまま保有していた方が良いと成年後見人が判断した場合、そのまま保有する事になるでしょう。

しかし、成年後見人は本人の財産を増加させる義務はありません。

また、運用実績がある金融商品だとしても、元本割れ等、本人の財産を減少させるリスクもゼロではありません。

その為、成年後見人が本人の金融商品を即処分し、現金化する事も十分に考えられます。

この点、家族の方が、

値上がり確実な為に、本人がこの金融商品を購入したのに。

と思われたとしても、個別具体的な状況で本人の意思を確認する事はほぼ不可能でしょう。

④ 旅行

本人の趣味が旅行であり、年に1回必ずどこかに旅行をしていた、と言うケースで、成年後見制度を利用した場合はどうでしょうか?

本人のお金から旅行代金を出す事ができるのでしょうか?

ご家族としては、本人のために旅行に連れて行ってあげたいと思うでしょう。

この点について、まず建前上のお話しをします。

本人のお金は本人がその人生を満喫する為に使うと言う視点に立つ必要があります。

そうすると、

「本人が元気なうちに旅行を趣味としており、それが本人の生きがいになっている。」

のであれば、本人の旅行代金を支出する事について、特に問題はないでしょう。

(もちろん、本人の資産状況から生活に大きな支障が生じなかったり、健康上の問題をクリアーする事が前提です。)

で、ここからは現実のお話です。

成年後見制度における、家庭裁判所の財産管理の基本的な方針は、「現状維持」です。

大雑把な言い方をしてしまえば、「無駄なお金は使うな」です。

その為、旅行がどんなに本人の生きがいだとしても、家庭裁判所からストップがかかる事が、現実として良くあるのです。

⑤ 家族の生活費の支払い

例えば、一家の大黒柱である夫が成年後見制度を利用した場合、妻の生活の為のお金の支出はどうなるのでしょうか?

民法上、夫婦は互いに助け合わなければならないとされています。

その為、

・妻が自身の収入だけでは生活する事ができず
・資産の状況から夫が妻に生活費を支出する事ができる
このような場合であれば、夫のお金を妻の生活の為に支出する事は可能です。
(※ただし、無制限ではありません。)

4.任意後見制度の財産管理

今までは成年後見制度の財産管理の具体的な考え方でしたが、任意後見ではどうなるのでしょうか?

任意後見は本人と任意後見候補者とで、事前に後見の内容を契約で決める事ができます。

つまり、成年後見と比較して自由度はあるのですが、後見は後見ですので、後見の本質、つまり、

本人の意思を尊重し、かつその心身の状態及び生活の状況に配慮

しなくてはダメです。

その為、上記の例で言えば、相続税対策や投資、旅行に関する事は難しいかも知れません。

5.まとめ

本来、お金の使い方は本人の自由であり、趣味にお金を使ったり、資産運用して資産を増やしたいと思うのは当たり前です。

しかし、その自由が成年後見制度、任意後見制度を利用する事で一定の制限がかかります。

本人の意思をしっかりと確認する事ができないので仕方がないのですが、それでも元気なうちは出来ていた事が出来なくなるのは、納得がいかないと思うでしょう。

その解決方法の一つが家族信託です。

もちろん、家族信託でここに挙げた全ての事がカバーできるわけではありませんが、それでもご本人が充実した生活を送るお手伝いは出来るはずです。

人生100年における認知症対策の一つとして、検討されてはいかがでしょうか?

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