成年後見人が選任されたら家族信託を取り消してくるのか?

家族信託の応用

こんにちは。

家族信託を行う目的の中で代表的なのが、「認知症対策による家族信託」です。

委託者が受益者となり、自分が認知症になった時に備え、受託者となった家族に自分の財産の管理や処分を行ってもらう仕組みです。

つまり、認知症になった時に備えると言う事は、委託者(受益者)が実際に認知症になる事もあり得るのです。

そうすると、考えられるのが家族の誰かが、家庭裁判所に後見の申し立てを行い、成年後見人が選任される事です。

家族信託についてあまり好意的ではない親族がいた場合、後見申立てを行ってくる事もあり得るでしょう。

そして次の段階で成年後見人が家族信託(信託契約)の無効を訴えたり、解除をしてくる可能性があるのです。

せっかく委託者(受益者)が考えに考えて家族信託を行ったにも関わらず、その思いが断ち切られてしまうのは問題でしょう。

そこで今回は、家族信託継続中に仮に成年後見人が選任されても良いよう、その対応策をお話ししたいと思います。

1.信託が終了する事由

まず、信託が終了する理由を、信託法から見て行きましょう。

信託法第163条~166条に規定されています。

まずは163条で成年後見人が関与しうる条文をピックアップしてみます。

・委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、信託契約の解除がされたとき。
このケースは委託者の破産と言うイレギュラーなケースです。

委託者の経済状況等から考えても、信託契約を終了させる事が、本人や関係当事者の利益になる事がありますので、この場合は家族信託を終了させた方が良いでしょう。

続いて、信託法第164条です。

・委託者及び受益者の合意等
認知症対策の家族信託では基本的に委託者=受益者ですので、成年後見人が委託者の法定代理人として、信託契約の解除を行ってくる事が考えられます。

最後は、信託法第165条、166条です。

・特別の事情により、信託を終了することが受益者の利益となることが明らかであるとき等の場合に、委託者、受託者又は受益者は、裁判所に信託の終了を申し立てることができる。
・公益を確保するため信託の存立を許すことができない場合には、利害関係人は、裁判所に信託の終了を申し立てることができる。
これも成年後見人が委託者の法定代理人として、裁判所に申立てを行う事が考えられます。

2.成年後見人が選任される事を想定しての対応

① 信託契約で別段の定めを設ける

委託者と受益者の合意解除を定めた信託法第164条ですが、実は第3項にこのような規定があります。

・前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
つまり、原則は委託者と受益者の合意で家族信託を終了させる事ができるのですが、別のルールを決めても良いと言う事です。

委託者及びその家族とすれば、

仮に委託者が認知症になったとしても、受託者が中心になり家族が一丸となって、委託者の財産をしっかりと管理していきたい

と言う思いがあるからこそ、家族信託を選んだのだと思います。

そうであれば今までの議論が全く分からない成年後見人が委託者=受益者の法定代理人として信託契約を解除する事は、委託者の意思に反する事になるでしょう。

その問題を回避する為には信託契約書の中に、
・信託法第164条第1項の規定にかかわらず、受益者及び受託者(受益者代理人が選任されているときは受益者代理人及び受託者)の合意がなければ本信託は終了しない。
このような条項を入れて対処する事が考えられます。

※委託者が認知症になった場合に備え、受益者代理人の選任に関する事を信託契約で定めて置きます。

そして、実際に(成年後見申立て前に)受益者代理人が就任したら、信託契約の解除は受託者と受益者代理人で行う事が出来るような規定にすれば良いと思います。

② 特別の事情による信託の終了を命ずる裁判について

上記でご紹介した信託法第165条による手続きで、合意による家族信託の終了が出来ない場合について、それを補完する機能があります。

そう言うと、

「結局裁判手続きで家族信託が終了する場合もあるじゃん!!」

と思われるかもしれませんが、その条件は結構厳しいものになっています。

条文を再度チェックして、その要件を簡単に説明すると、以下のとおりになります。

【信託法第165条1項前段】
・家族信託をスタートさせた当時、予想する事が出来なかった特別の事情がある事。
「予想する事ができなかった特別の事情」は個別的に判断する事になると思いますが、文字通り、当初想定する事が出来なかった事が発生する必要があります。
【信託法第165条1項後段】
・信託を終了する事が信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるとき。
ここで注目なのが、
「信託を終了する事が信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして」

と言う部分です。

つまり、

「信託を終了する事が、信託の目的に照らして受益者の利益になることが明らか」

である必要があるのです。
信託の目的は受託者が仕事を行う上での指針であり、家族信託の重要な要素になります。

信託の目的に照らす必要がありますので、信託の目的は丁寧に作りこむ必要がありますし、しっかりと作りこむ事で信託を終了する事が受益者の利益につながる事はそうそうないでしょう。

もし、しっかりとした信託の目的を規定しており、それでもその信託の目的に照らし合わせて信託を終了した方が受益者の利益になるのであれば、そもそも裁判手続きを行わず信託を終了させるべきです。

③ 公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判について

再度、信託法第166条を簡単に説明します。

・公益を確保するため信託の存立を許すことができない場合には、利害関係人は、裁判所に信託の終了を申し立てることができる。
例えば、

・不法な目的に基づいて家族信託が行われている。
・受託者が法令や信託契約等で定めた権限を逸脱したり濫用する行為等を行った場合。

このような時に、裁判所が申し立てにより、信託の終了を命ずることができます。

これは信託の目的そのものが不法な場合や、受託者に問題があるケースですので、まっとうに家族信託を行っているのであれば、特に気にしなくても良いでしょう。

④ その他

その他、

・信託契約を締結した際に、委託者が既に認知症で意思能力が無かった事を理由に信託契約の無効を主張。
・信託契約を締結した際、委託者は脅されていたので、契約を取り消す。

等の展開が考えられます。

この点については意思能力がしっかりあった事を記録に残したり、脅迫等を行った事実がなければ問題はないと思われます。

3.まとめ

成年後見VS家族信託と言う構図は、実は色々な場面で展開されています。

双方、メリットもありデメリットもあるのですが、一番大切なのが、委託者である本人が「どうしたいか?」だと思います。

認知症になった後の事について、多少窮屈でも専門家にしっかりと財産管理を行ってもらいたいのであれば成年後見や任意後見を選択すべきでしょう。

そうではなく、何だか良く分からない専門家が家族と付き合っていく事をあまり快く思わないのであれば、家族信託を選択肢としても良いと思います。

法律上の様々な制度は本人を縛るためのモノではなく、あくまで本人が考える理想を叶えるための方法や手段に過ぎません。

成年後見、家族信託のメリット・デメリットを十分に検討の上、まずは本人がどうしたいのか?それをじっくりと考える必要があるでしょう。

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